純喫茶『ユタ』

あの日の自分に還る旅、あの日ツアーズ。先ず隗より始めよというわけで、今回は高田馬場へ。

ここは僕が1990年代から2000年代にかけて過ごした街。今や早稲田通り沿いの顔ぶれは激変しているが、かつてあった店で印象的なのは『ユタ』という喫茶店だ。

当時でも貴重な存在だったいわゆる純喫茶。胸に店名が刺繍された白衣の店員さんがきびきびと立ち働き、客は店内の雑誌、新聞を眺めながらひたすらのんびり過ごす。場所柄、大学の先生や編集者が打ち合わせに使い、聞いたこともないような世界の会話が飛び交ったりもする。

今日はちょっと気合いを入れてのんびりしよう(矛盾した日本語だが)というときに頼んだのが、カツバーガーのセット。コーヒー、スープにピクルスもついて確か850円くらいではなかったか。サクサクの揚げ加減とキャベツ、甘辛いソースが絶妙のコンビネーションだったが、ついじっくり見入ってしまうのはそのワンプレートの器だった。

全ての品がきちんと小分けされる、角丸長方形のクリーム色のプレート。表面にもう1枚、透明の層が貼られている。外れるのかなと思ったが外れない。そのデザインには、宇宙食か(食べたことないが)、異国のカフェ食を想像させる洗練とキッチュさがあった。この『ユタ』がいつからあったのか知らないが、明らかに“未来を夢見ていたあの頃”から続いているのだろうと思われた。

現在うるさく言われる分煙もない。それでもあまり煙は気にならなかった。天井が高いからか、冷暖房がガンガン効いていたからか。いや恐らくはゆるい雰囲気のせいだろう。とにかくみんな、店にいるそのときを楽しんでいた。ちょうど通った頃は、バブル崩壊後のいちばん底辺の時代だったが、それでも今よりずっとのんびりしていた。

しばらくして『ユタ』は某うどんチェーンに変わった。いまだそのチェーン店には足を踏み入れたことがない。うどんに罪はないのだけれど。

まさか成城石井ができるとはねえ。驚いた、というか、笑ってしまった😅

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コメント

  1. ユタのウエイトレスには、早稲田の学生劇団の劇団自由舞台の女性がいたと思います。1960年代中頃です。やはり、結構きれいな女性たちでした。

    • seyanna より:

      そうでしたか! 舞台映えする女性たちがきびきびとサービスしてくれるとは、なんと贅沢な空間。喫茶店がまさに舞台と化していたのですね。その頃を体験してみたかった!

  2. 美千代 より:

    とっても誠実な優しいマスターでした(*^^*)
    マスターが仕事終わりのお店でお土産に持ってこられたカツサンドの味が忘れられないです
    もう一度食べたいないです(*^^*)

    • seyanna より:

      素敵な思い出ですね!
      今のような時期だからこそなおさら、ご近所どうしのつながりとか、気遣いがありがたく思えますね。
      個人でされているお店にがんばっていただけるよう、少しでも応援できればと思います。

  3. 三四郎 より:

    ユタへの想い、今73歳20代の頃少し贅沢なコーヒーとホットドッグ味わい、何とも、しあわせ感がありました。40代迄は年に2、3回は地下鉄、電車で通いました。車で向かうと、駐車スペースが見つからず、遠くに停めて、短い時間で、味わい、テイクアウトで、ホットドッグ家族人数、プラス2個、私は1日で店、自宅で3個食べてました。ユタが無くなった時からの喪失感、いまだに!

    • seyanna より:

      そう、何とも言えないしあわせ感がありますよね。コーヒーと食事と空間の三位一体感とでも言いましょうか。
      折しも純喫茶ブーム再燃のいま、もし残っていたら引きも切らずお客さんが来ているでしょうね。
      私もいまだに喪失感があります!